問1 特発性細菌性腹膜炎に関連した記述のうち、正しいものをえらべ。
a) 血液培養が陰性であれば、特発性細菌性腹膜炎は否定できる。
b) 特発性細菌性腹膜炎にはアミノグリコシド系抗菌薬が第一選択薬である。
c) 特発性細菌性腹膜炎では、著明な筋性防御が出現しやすい。
d) 白血球エステラーゼ試験紙は特発性細菌性腹膜炎の診断に用いられる。
e) 肝硬変患者における特発性細菌性腹膜炎の合併率は1%程度である。
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正答 d)
a) ×。たとえ血液培養結果が陰性であっても、腹水中の好中球が500mm3以上、またはそれ以下でも他覚的症状があれば特発性細菌性腹膜炎と診断できる。本症は、外科的介入を要さない腹膜炎であり、肝硬変による高度な免疫不全状態が背景にあるとされる。
b) ×。第3世代セフェム系抗菌薬。
c) ×。本症では、Blumgerg徴候などの顕性徴候の頻度が低いことから、腹水の好中球算定は必須である。
d) ○。
e) ×。8%~18%とされている。
※なお、消化管出血や重症肝硬変症に対し、特発性細菌性腹膜炎を防止するための抗菌薬の予防投与は有用とされている。
問2 肝硬変症例の腹水管理について、誤っているものをえらべ。
a) 原則的には減塩食が望ましい。
b) 腹水に対してスピロノラクトンよりもフロセミドが有効である。
c) スピロノラクトン、およびフロセミドに不応性を示す場合には、トルバプタンの投与を考慮する。
d) 薬剤抵抗性の腹水に対しては、アルブミン併用下での腹水の穿刺排液が有用である。
e) 難治性腹水に対する腹腔-静脈(P-V)シャント術として、腹膜-頸静脈シャントが用いられる。
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正答 b)
スピロノラクトンの方がフロセミドよりも有効とされている。ただし、腹水が増加傾向の場合にはフロセミドの増量を考慮する。
穿刺排液に関しては、腹腔内圧が下がり、循環の改善が期待できることから、ガイドラインでも推奨される方法である。ただし、対症療法に過ぎず、再貯留は起こりうる。
P-Vシャント術は腹水を静脈還流に戻す手技であり、腎血流量の増加などを期待できるが、敗血症や腹膜炎、循環血症量の増大による心不全、DICといった合併症が問題となる。
問3 肝腎症候群に関して、正しいものをえらべ。
a) 二日間利尿薬を中止することで濃縮尿が改善する。
b) アルブミン輸液を行うと、血清クレアチニン値が1.5mg/dLに低下する。
c) 超音波検査は重要視されない。
d) テルリプレシンとアルブミンの併用が有用である。
e) 肝腎症候群において、P-Vシャントは積極的に推奨される。
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正答 d)
肝腎症候群の定義とは、腎前性腎不全といかに鑑別するかという点に重点が置かれている。従って、利尿薬の中止やアルブミン輸液といった、血管内volumeを増やしても腎機能が改善しないものが肝腎症候群の定義となる(旧ガイドラインでは、“1.5Lの輸液を行って腎機能が改善するかどうか“という内容の条件があったが、アルブミンの方が循環血漿量の持続効果が期待できるため、アルブミン輸液という内容に改められた)。腹部超音波検査での腎血管抵抗指数(RI)は、腎障害が生じる前から軽微な異常を検出でき、診断に有用とされている。
問4 肝硬変症に対する栄養療法について、正しい記述をえらべ。
a) 栄養療法で肝硬変患者の全生存率が向上することがエビデンスとして示されている。
b) 肝硬変患者への就寝前エネルギー投与は、予後に影響は与えないがQOLの向上に寄与される。
c) 肝硬変患者への分岐鎖アミノ酸投与は禁忌である。
d) 肝硬変患者であっても、生魚、生肉の摂取による感染症リスクは通常人と変わらないため、摂食の制限は不要である。
e) 肝硬変患者では、一般的に低インスリン血症が認められる。
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正答 b)
a) 低栄養状態が死亡率の上昇に関わることは明らかであるが、低栄養状態からの改善が生存率に寄与されるか否かについては、2018年現時点では明確なエビデンスが不十分な状況である。
b) 就寝前エネルギー投与(LES)は、寝る前におにぎり一個程度(200kcal前後)の夜食をとることである。投与1週間でエネルギー代謝の改善が認められる。
c) 分岐鎖アミノ酸投与は、腹水の合併頻度を下げ、少数例での検討ながらも発癌抑制効果なども報告されている。
d) 致死性のビブリオ感染を起こしうるため、生での摂食は控えるべきである。壊死性筋膜炎に至った場合の致死率は70%である。
e) 肝硬変患者では、β細胞からの過剰分泌と肝臓での分解能の低下によって血中のインスリン濃度が上昇しているとされる。
問5 肝硬変患者への抗ウイルス療法について、正しい記述をえらべ。
a) HBV DNA量と発癌率は相関しない。
b) HBs抗原量と発癌リスクは相関しない。
c) HBs抗原の低下はB型肝炎の病勢が増してくる前兆である。
d) B型肝硬変症例のうち、HBe抗原陽性例は肝炎の活動性が低い。
e) HBコア関連抗原は核酸アナログ治療の効果判定に用いられ、治療終了の目安になる。
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正答 e)
HBV DNA量やHBs抗原量は発癌リスクと相関する。特にHBs抗原量の低下はB型肝炎の終息を強く示唆する所見である。HBe抗原が陽性の症例は肝炎の活動性が高く、非代償性肝硬変に陥るケースが多い。核酸アナログ製剤でHBV DNA量は速やかに低下するが、HBコア関連抗原の低下は緩やかである(ちょうど感染症治療において、白血球数の低下と比べて、CRPの低下が遅れて随伴するようなイメージ)。HBコア関連抗原が低下すれば、十分に核酸アナログ製剤が効いた、ということを意味するため、治療終了の目安になる。
問6 C型肝硬変患者へのインターフェロン療法について、正しいものをえらべ。
a) ラミブジン
b) アデホビル
c) エンテカビル
d) テノホビル
e) ダクラタスビル
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正答 e)
上記a)~d)は、全てB型肝炎に対する核酸アナログ製剤である。
核酸アナログは、肝線維化や発癌抑制効果のほか、セロコンバージョンを誘導する。セロコンバージョンとは、ウイルスの増殖が抑えられることでHBe抗原が陰性化し、HBe抗体が出現していくる現象を指し、病勢の鎮静化を示唆する。なお、ダクラタスビルはアスナプレビルとともにC型肝炎に用いられる薬剤である。
問7 B型肝硬変に対する核酸アナログ製剤ではないものをえらべ。
a) C型代償性肝硬変へのインターフェロン療法では、ペグインターフェロン単独投与が標準治療法である。
b) ジェノタイプ1b型のC型代償性肝硬変ではSVR率が高い
c) ジェノタイプ2型のC型代償性肝硬変では、ペグインターフェロン単独療法でのSVR率が高い。
d) C型非代償性肝硬変の場合、ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法を行ってもSVR率は低い。
e) インターフェロン療法でSVRを達成できても、肝線維化は改善しない。
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正答 d)
まず、肝硬変治療に馴染みの無い非専門医にとっては名称の整理が必要と思われる。
SVR率とは、『ウイルス学的著効達成率』を意味し、24週間、すなわち約半年間で血中ウイルス価が陰転化していれば、「薬が著効した」すなわちSVRを得られた、とする。
問題文のうち、そもそもインターフェロン療法が単独で使用されていたのは1990年代初頭であって、2018年の現在ではまず行われない方法といってよい。ペグインターフェロンとリバビリンの併用が標準治療であるから、a)は誤りである。
ジェノタイプとは、ウイルスの遺伝子型のことで、1b型がタチの悪いタイプである。当然SVR率は低く、治療に難渋する。2型はペグインターフェロンとリバビリンの併用療法で高いSVR率を達成できるとされる。ところが、非代償性の肝硬変に進行してしまうと、ジェノタイプに関わらず、SVR率は低くなってしまう。
なお、タチの悪い1型に対して、ダクラタスビルとアスナプレビルの併用療法が奏功することが報告され、両薬剤の併用が保険収載されたばかりである。
e)に関してであるが、大規模RCTで肝線維化の改善が報告されている。多変量解析で肝線維化の改善に寄与する因子は、SVRとBMIと言われている。
問8. C型肝硬変に対する抗ウイルス療法に関して、誤っているものを二つえらべ。
a) ダクラタスビルとアスナプレビルの併用療法は、インターフェロンとリバビリン併用療法よりも有害事象が少ない。
b) ソホスブビルとリバビリンの併用において、催奇形性に注意する。
c) 初回インターフェロン療法が無効だった場合でも、ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法が奏功することが多い。
d) 強力ミノファーゲンCは、ウイルスの増殖と、肝線維化を抑制する。
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正答 c)、d)
a) 文章の通り。
b) ソホスブビルとリバビリンの併用では、貧血や腎不全、催奇形性が問題となる。
c) 初回インターフェロン療法が無効な場合、ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法を行ってもSVR率は10%以下である。
d) 臨床でしばしば使用される薬剤だが、肝線維化抑制効果などは実証されていない。